ハーブ&ドロシー HERB&DOROTHY

先日、 今話題の映画『ハーブ&ドロシー』を観てきました。
http://www.herbanddorothy.com/jp/

チラシに詩人の谷川俊太郎さんが書いている「ヴォーゲル夫妻は、言葉や知識にとらわれずに、自然を見るのと同じように自分の眼で作品の《美》とその背後の《人間》を発見します」という言葉、”自分の眼で”というところ、特に映画で一番印象に残った部分なので、強調したいものです。自分の眼や感性でもって判断して、美術作品を購入する、それも投資などの目的ではなく、有名無名問わず、作者(アーティスト)と直接対話して感じて判断する、そういう人がいかに少ないことか。
美術関係者でも(画廊経営者やキュレーターなど)自分で判断できない人というのはたくさんいます。評論家の意見やメディア、外国での評判、有名作家の推薦などでアーティストや作品を判断する人が多いものです。流行のものや有名ブランドを身につけていれば安心、という感覚と似ています。
特に流行が好きなのは日本に顕著な傾向で、自分の眼を信じて無名だけれど新しいものを自分で見いだそうという精神を持っている人は少ないと感じてきました。ですが、この映画は連日満員で一般の人が多く観ている事を思うと、多くの日本人の意識がー特に若者ー変わってきたのかな、と思います。
ヴォーゲル夫妻の外見の雰囲気はとても素朴で可愛らしいのですが、切磋琢磨してきたすごい人ほどそういうもので、かどがとれたくせのない素朴な外見をしています。私が今まで出会った素晴らしい人は(自分の眼を持ち自己確立のできている人)皆そうでした。
私は、パリで毎年1回、秋にアトリエで作品公開をしていますが ーアトリエといっても個人のではなくパリ市のアトリエで、200世帯アーティストが制作している場所ですー そこで、かなり以前から一般の人達に一斉にアトリエを公開して、アーティストから直接作品を購入できたり、作品にふれ直接話しができる機会としてAteliers Portes Ouvertes(アトリエ公開展示)という催しが市や関係者によって運営されてきている事に感心しています。アートと市民が交わり垣根のない事がいかにお互いに大事なことか。文化というのは育てるものである以上、どんな職業の人でも芸術を見たり聞いたりする事ができ、直接関わる事ができることが大事なのです。それをパリにいるとつくづく感じます。この催しでは、1日に1000人以上の人と会うことなります。
この夫妻は直接アーティストのアトリエを訪れて、作品をすべて見るのですが、過程をとても知りたがります。アートがいかに生み出されるか、過程は、アトリエに行き作家に直接聞き、たくさん作品を見せてもらうととてもよく分かります。
過程を知り理解すればするだけ、作品の輝きが増すのです。芸術作品を買うという行為は、その作者の精神を共有する事だと考えれば、ただ購入するよりも作家自身がどういう人なのかと共に、作品の過程に重きをおくのは当然だと思いますが、いかがでしょうか。
自分が買える金額で作品を探し、有名無名を問わずこれは独創的だと思う作品を直感と共に過程を理解して購入するという、こういう姿勢は、多くの皆さんに真似してもらいたいものです。

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