岡本太郎 生誕100年記念ドラマ

2月26日土曜日の21:00からNHKでやっていた岡本太郎の生誕100年を記念しての連続ドラマ1回目を観ました。3月8日〜5月8日まで、東京国立近代美術館で生誕100年岡本太郎展が開催されるのにちなんで放映されたのだと思います。
芸術家ものはTVドラマで面白いのを見たことがないので、どうせまたがっかりするに違いないと思いながら、それでもどんな風に撮られているか気になったので観てみました。

まず観た感想としては、岡本太郎の母である、かのこ役に寺島しのぶ、というのは適役でした。寺島しのぶはなかなかの個性派俳優で役になりきって演技する姿はいつも好印象で、狂気に近い熱情のようなものをもともと秘めた女優なのか、かのこ役にはぴったりな印象でした。実生活でフランス人と結婚しているからフランス関係といえなくもないですが、それでも芸術に対する熱情、狂気というものを強く表現できる女優はなかなかいないと思います。
太郎役の子役は本物の太郎に顔がそっくりな聡明な感じでしたが、大人になってからの太郎はメイクや動きが不自然な感じがしました。大人になってからの姿というのは、本人がTVに出演していた事もあり、配役や演出に苦労があったと思われます。
それでも話し言葉などには生前の本人をうかがわせるものが感じられ、ああそうだったな、とあらためて思いだす事ができました。
だいたい芸術家ものというのは、一般的な尺度でドラマ化できないものだと思われます。よっぽど本人やその芸術を理解していないと結局は破壊的生活、などのハチャメチャな面が強調され、ゆがんで伝わり、芸術家というものはすべてそういうものなのだという誤ったイメージが定着してしまうので、よく分かっていないならなるべく芸術家ものはつくらないでもらいたいのです。芸術家ものは生前に本人出演のドキュメンタリーで制作風景やインタビュー形式でやるのが一番ではないでしょうか。
岡本太郎に関しては、秘書で養女の亡き敏子さんが書いた岡本太郎の言葉をまとめた本も含めてほとんどの著作を読んでいますが、やはり本人の生前に出版された本をおすすめします。パリ時代にソルボンヌで民俗学の研究をしているのですが、その時に日本の縄文時代の土偶や土器などに表れている土着的で大らかな形態の素晴らしさを再評価し書かれた文章も思想家としての力を感じますし、あれほど明敏に的確に言葉を使う日本人の芸術家はいないのではないでしょうか。縄文文化に関しては、平面や立体作品にも土偶などの形態からイメージしたいろいろな形をみつける事ができ、太陽の塔の大らかな形態は土偶などのイメージと母性愛を感じます。
ちなみに、フランス語も流暢だったので、言語能力が優れていたのでしょう。優れていたという面では、ピアノ演奏も素晴らしく、フランス語の歌詞を流暢に歌いながらよく演奏をしていたそうです。そういう所も粋で私としては親近感を持ちます。(歌でおもいだしましたが、このドラマの最後にかかる美輪明宏の仏語のシャンソンは演歌調でふきだしました。シャンソンが変な節回しで演歌の様に喉を鳴らして歌われているのです。あまりに変で面白いので是非聞いてみてください。)

私の亡父はフランス文学・哲学の専門家でしたが、私が成長期に本を読むようにすすめられた記憶がなく、唯一読むように言われてもらった本が、岡本太郎著の芸術論全集と「ソフィーの世界」というノルウェーの哲学教師が書いた本でした。あと、大人になったらプルーストの「失われた時を求めて」を一度は読むといいと言っていました。そういうわけで、子供時代に唯一熱心に読んだ本が岡本太郎の本だったので、思い入れが深いのかもしれません。
今回の岡本太郎のドラマはそれほど深くはやれなくても一般の人達に優れた思想家でもあった岡本太郎の良い部分が伝わるものであってもらいたいです。

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