歌舞伎 通し狂言・絵本合法衢

昨日、3月14日(月)は以前から予定していた、半蔵門にある国立劇場での歌舞伎を観に行ってきました。演目は、通し狂言・絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)で、片岡仁左衛門による悪党二役、爛熟期の江戸歌舞伎、四世鶴屋南北の傑作です。(四幕)
http://www.ntj.jac.go.jp/kokuritsu/index.html

停電で電車が不通になるようであれば、公演も中止ではないかと思ったのですが、昨日は朝に予定していた計画停電はなくなり、劇場に朝から問合せの電話をしていましたが通常通り公演はするとの事でしたので、行くことにしました。前まえからの予定で楽しみにしていたのもあります。
心配していた電車の不通もなく、この日は日差しがあって暖かく外を歩くのも気持ちが良い日でした。
大変な震災がおこり、まだ余震や停電もおきている事を思うと、呑気に歌舞伎観劇、というのは不謹慎のような感じに思われる方もいるかもしれませんが、かえってこういう時こそ予定どおりに、楽しみを優先する事が精神衛生上大切だと思うのです。

大劇場でいつもは満員に近いらしいですが、さすがに震災とこの停電さわぎで来場者数は少なく、まばらでした。1階の中央あたり(10列41番)の席でしたが、席が空いているので前の方へ移って役者の顔・所作をじっくりとみてきました。

歌舞伎は、10年ぶりぐらいの久しぶりで、この演目についても片岡仁左衛門についても、作者もよく知らず、ずぶの素人、外国人と同じです。解説のイヤホンをかりないと内容が分からないのではないか、と思っていたのですが、ところがどっこい、チラシのあらすじを読んだだけでも筋が読める、分かりやすい内容で、簡単に言えば、"二人の悪党が悪事の限りをつくしそして最後には仇討ちによって討たれる"、というもの。ですが、善人方の仇を討つ側が艱難辛苦の末にみごと本望を達するという決まったパターンだけでなく、善人方もあらかた返り討ちにあうという非情な設定がユニークで、私好みでした。
実は私は「水戸黄門」や「子ずれ狼」「座頭市」などのファンでして、不条理・仇討ち・勧善懲悪ものは大好き。おばあちゃんっこだった私は、芝居好きな祖母と一緒に、TVや映画ではいつもこういう時代ものを観て育ったのです。
そして、この傾向は、海外で長く暮らすようになって新たにめざめて余計に強まり、パリでは黒澤にはじまり、宮本武蔵や日本のありとあらゆる昔の時代劇ものの映画を観ました。フランスは映画の中心地なのもあり、日本映画専門のシネマがあり、偶然近くに住んでいたのでよく通いました。その上、座頭市と子ずれ狼、黒澤あきらは、パリでDVD全集まで買い、字幕の仏語が勉強になるとか言う口実で内容をすべて暗記して言えるほど何回も観ています。
話しがそれましたが、歌舞伎と映画はもちろん違いますが、内容的に親近感が持てるものであった、という事で、音響や舞台装置も楽しめましたが、役者がなんといっても上手かった。武家と庶民の二役を演じる片岡仁左衛門(にざえもん)もよかったですし、色気がありいかにも女形という面立ちの中村時蔵も魅力的でした。最後の仇討ちをする市川左團次(さだんじ)も貫禄があり、衣装も素晴らしく、久しぶりにとても豊かなものにふれた気がしました。

毎日続くTVやラジオの報道で被害にあわれた方達の顔や言葉、状況などで心を痛め、また不安をあおる報道で、感情が暗く重い精神的に不安定な状態におかれ、その上余震で寝不足、という疲れる毎日で、この歌舞伎を観てほんとうに気分が明るくなり、よかったです。
 
震災にあわれた方達は本当に気の毒ですが、あまりに感情移入して自分に引き込みすぎたりすると、被害もなく元気であるはずの自分の精神状態が、不健康で不安定になるのです。
深刻な時こそ、楽しみや笑いを忘れないように、なるべくいつもの日常を送るように心がける、というのが大事ではないか、と思います。報道というのは大げさに不安をあおりマイナスの想像を広げるような内容が多いので、まともにとりすぎると身体によくありません。
知らなければそれでどおってことなく過ごしていた、という事も多いものです。
大気汚染の事もそうで、やたらと心配してマスクをびっちりして過剰防御している人がいますが、たばこと同じで吸っている全員が肺ガンになるわけはなく、あまりピリピリすると、かえって免疫が落ちて病気になりやすくなります。
病は気から、というのは本当ですから。

講座もそうですが、日常と違う空間や、人の中にいると、気分転換になります。
なるべく楽しい事をして、気持ちをゆったりと持つように心がけましょう。

ちなみに、昨日15日はこの歌舞伎は公演されましたが、今国立劇場のHPをみたところ、今後は中止になっていました。当然ともいえなくはないですが、素晴らしい演技(舞台芸術)を観ると癒されるのに、観られない方がでるのは残念です。

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